ガレリア・プロバ

ガレリア・プロバ1989年11月発行「La Gazzetta 創刊2号」

プロバ・カンファレンス・ダイジェスト:第1回「コーポレート・アートとマイクロミュージオロジー」

去る(1989年)9月13日、ガレリア・プロバ本店にて講演会が開催されました。
講師は美術評論家でジャーナリストでもある室伏哲郎氏。
今回は、私設美術館建設予定の方々からの御希望による開催だったため、出席いただいたのも関係者の方々約20名でしたが、今後幅広いテーマでこうした講演会を行っていきたいと思っています。


今回の講演内容をダイジェストで御紹介すると――
I.米国におけるコーポレート・アートの成立と発展
今や企業が美術・文化活動を支援するのは、当たり前の話になっている。
しかし、そうなったのもここ数年のこと。

米国におけるコーポレート・アートは70年代半ばに起こったが、急展開したのは70年代後半。
当時米国はベトナム問題にようやくケリがつき、好景気がおとずれた頃で、この好景気の波にのってコーポレート・アートの動きも高まっていったと思われる。

初期の1976年に全米企業の美術部門がアートに注ぎ込んだ金額は2億2100万ドル、85年は7億ドルと飛躍的に伸び、今日(1989年当時)ではさらにその倍になったのではないかといわれている。
経済の行動成長が加速した日本の企業社会も、このコーポレート・アートを検討する成熟段階にきているといえるだろう。

II.米国コーポレート・アートの特色
コレクションの内容は主に、アメリカン・コンテンポラリーを中心として各企業ともかなり個性的である。

日本では、コーポレート・アートというと即美術品投資という発想につながり易い。
しかし、米国でコーポレート・アートを積極的に行っている企業に共通していえることは、アートをコレクションするのは決して投資のためではないという点である。

投資のためではなかったら一体何のためか。
ほとんどの企業がその趣旨として従業員ひとりひとりがグッド・テーストを身につけ、ひいては人間の文化・精神のグレード・アップを唱えている。

つまり、利益をあげさせてくれた社内外の社会への還元奉仕である。

「奉仕」というと何となく物足りなく思うオーナーの方々のために、モービル石油副社長ハーブ・シュマーツ氏が自著「グッバイ・トゥ・ザ・ロー・プロフィール」の中で挙げている「コーポレート・アート:8つのメリット」を下に紹介する。
  1. 卓越した文化は高度な企業イメージにつながる。
    だから、一流のアートや文化を援助すれば、連想で企業イメージはアップする。

  2. アートや文化のプロジェクトにしばしば名前を出す企業は、金儲けオンリーではなく幅広い社会的関心のある存在と評価され、企業のトップ・幹部は公共政策にも意見を求められるようになる。

  3. それ自体ディグニティ(威厳)をもつアートや文化プログラムに自社が関係するという事実は従業員のプライドを高める。

  4. 芸術分野への企業参加は抵抗が少なく、企業にとって、それぞれの地域コミュニティでリーダーシップをとり、企業イメージを高める絶好のチャンスとなる。
    そして、さらに他のジャンルでもリーダーシップをとれる機会も増える。

  5. 文化イベントの開催・後援ではVIP(社会的重要人物)を招待することができ、ビジネス・チャンスも開ける。

  6. 米国政府や自治体のトップはたいてい何らかの文化的関心を持つ。
    その個別傾向を知り、彼らが推進する文化プロジェクトを支援することによって、政治、行政のトップと交流が持てる。

  7. 求人面でもプラス。
    若者はコミュニティや文化を尊重する企業への就職にあこがれている。

  8. 従来の企業利益の社会的還元は、資金効率の面からもインパクトのある比較的有産階級に重点が置かれていたが、知識欲と向上心の旺盛なヤング向けの文化的あるいは芸術的プログラムに注力することは、次代をキャッチする強力なパワーとなる。


III.マクロミュージアム(小美術館)の可能性
モノ・カネの時代に飽きがきたとき、次に求められるのは「こころの時代」である。
そう読んだのはコーポレート・アートのパイオニアであるチェース・マンハッタン銀行の当時副頭取であったD.ロックフェラー氏だ。
彼は今からすでに30年も前に、その頃まだ評価の定まっていなかったアメリカン・コンテンポラリー・アートに51万ドルを投じた。
石炭の時代に石油を、石油の時代には原子力を、こうした先読みの戦略で成功をおさめてきた彼が、次に目をつけたものがアートだったのである。

当初は非難ごうごうだったというこの戦略も、今ようやく的外れでなかったことが立証されつつある。
コレクションはニューヨーク本社ビルをはじめ、全世界の支店に展示されており、先日わが国で行われた横浜博にも、横浜市立美術館開館記念のために130点が貸し出された。
このように、従来社長室や重役室だけを飾っていた閉鎖的なコレクションを一般に公開するというのも、パイオニアと呼ばれるにふさわしい画期的な姿勢であり、また、これらのコーポレート・アートのあり方を示しているといってもよいだろう。

こうしたことから、企業はコレクションを社会公衆に差し出すことによって、徐々に美術館と同じような役割を担いつつある。
人々が単なるコマーシャルやキャンペーンなどの企業PRには躍らされなくなり、モノ・カネよりも「こころ」が求められる時代に、美術はその物自体がかなり強力な、企業の宣伝効果・イメージアップの力を持ち、もちろん即企業利益の社旗還元にもつながる。

まだ日本のようにこのようなことに対して、アメリカのいくつかの州にあるような税制・補助金問題などに関する行政機関の動きや、資金集めに動くディベロップメント・オフィサー、その他アート・コンサルタントなど新しい職種の人々の動きが本格的になってくれば、私設の小美術館の持つ可能性は大きい。

昔は特定の個人のパトロンが、そして現代はそれにかわって企業が、その莫大な資金をもって世界の美術流通市場をささえている。
この事実は今後ますます強く認識されることになるであろう。(S.Y)
(引用・参考文献:生活の友社 月刊「美術の窓」No.73~No.82 ―21世紀企業の美術戦略―)
室伏哲郎(むろぶしてつろう)
神奈川県生まれ。東大文学部中退。世界で初めての「版画事典」をはじめ、「芸術家の魂」「名匠無頼・加藤唐九郎」などユニークな切り口の美術評論の分野を確立。 傍ら、テレビの女性番組の司会者の経験もあり、近未来小説も手がける。 また、「汚職の構造」「企業犯罪」などの硬派の著書も多い。 守備範囲の広い学際ジャーナリスト。作家。


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このページは1989年11月25日にガレリア・プロバから発行された「La Gazzetta 創刊2号」の内容を掲載したものです。


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